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仕事として描くからには、見て下さる方や自分が少しでも良いと思えるものを模索したい。

石川 佳代子さん(アニメ作画監督/株式会社MAPPA 作画・演出部)
いしかわ・かよこ
MAPPAオリジナルTVアニメ『全修。』ではキャラクターデザイン・総作画監督を担当。『さらざんまい』では、キャラクターデザイン・総作画監督を担当。
他作品では、作画、『アイカツ!』9本、『うちタマ?! ~うちのタマ知りませんか?~』11本のエンディングアニメーション(コンテ、演出、作画、イメージボード、BG、カラー)、プロップデザイン、衣装デザイン、イメージボード、カラーコーディネートなどを手掛けてきた。
■株式会社MAPPA
2011年に、アニメーションプロデューサー 丸山正雄氏によって設立されたアニメ制作スタジオ。代表作は『呪術廻戦』『「進撃の巨人」The Final Season』『チェンソーマン』など。
“何度も観返したくなるような、出会えてよかったと思ってもらえるようなアニメを創りたい”と、アクション、ファンタジー、スポーツほかジャンルを問わず幅広い作品を制作。そのクオリティの高さによって多くのファンや業界関係者から支持を集めている。
東京・大阪・仙台にスタジオを展開。TVアニメ・映画だけでなく、企業のアニメーションCMやアーティストのミュージックビデオなども手掛ける。加えて、商品化、イベント、配信などアニメビジネス全般にも携わっている。
アニメの仕事を知る15の質問■大事にしているのは?「キャラクターの性格が反映される表情やポーズ」
2025年1月から放映・配信がスタートしたMAPPAオリジナルアニメ『全修。』。その中で、主人公である天才アニメ監督ナツ子が使っているのが、uniの鉛筆「ユニスター」です。作品のキャラクターデザイン・総作画監督を努めた石川さんに取材を申し入れたのは、その制作の真っ只中でした。
アニメーションは世界に誇る日本のカルチャー。数々の作品を手掛けてきたクリエイターがどんなことを考えているのか、「描く」ことにどう向き合っているのかをシンプルに知りたい。興味が赴くままの30問30答。制作の渦中にいる石川さんが、仕事の合間を縫って答えてくれました。掲載されているタイトル画像やイラストもすべて石川さんの直筆です。

まずは、基本的なところからで恐縮です。石川さんのお仕事「キャラクターデザイン」と「作画監督」がどんな仕事なのか教えてください。
キャラクターデザインは、キャラクターの設計図です。キャラクター性は勿論ですが、アニメは2Dでありながら縦横無尽に動くので、360度回転しても描ける様にデザインされています。 作画監督は、監督や演出さんの意図を汲み取り、芝居をより良くし、調整する役割があります。
キャラクターのデザインはどんなプロセスで進められるのですか?
(『全修。』では)メインキャラクターなどは辻野(芳輝)さんが原案を描いて下さっているので、それを元に若い世代の客層に刺さりやすい様に再デザインしています。原案の無いキャラクターは新規で作っています。オリジナルのファンタジー作品なので、どんな風土、国、人種、文化のある世界なのかを一から考える必要がありました。アニメ本編に出てくる町は、中世ヨーロッパが基準になっているので、キャラの服装などは参考にしました。
石川さんが、キャラクターデザインや作画をする上で大事にされていることは何ですか?
各キャラクターの性格が反映される様なポーズや表情を大切にしています。
動きや表情を画に落とし込むために、普段からやられていることは?
各キャラがしそうなポーズや表情の参考になる資料を調べたり、自分で鏡の前やカメラの前でポーズをしたり動いてみたりしています。外から見たら相当、不審者に見えるような動きをしてるでしょうね。(笑)キャラの表情を描く時もその感情になって描いています。キャラが怒ってる時は怒った顔を、ニヤニヤしてる時はニヤニヤした顔を実際に自分がしているのですが、そのタイミングでスタッフに声をかけられるとそのままの顔で振り向くので、これもまた不審者感がありますね~……。
作品を見る人に登場人物の「個性」を感じさせるには、どんな要素が大事だと考えますか?
多くを語らなくても、生い立ちや性格、趣味、趣向が個性としてディティールに現れている事です。
作画が難しいと感じるのはどんな時ですか?
色々あるのですが、特にキャラクターの感情が乗った絵を上手く描けない時です。 行き詰まった時は、一晩寝かせると客観的に絵を見ることができるので、次の日に描き直したりします。
行き詰まった時はどんな気分転換をしていますか?
散歩したり、コンビニに出かけたり、ルームミストを撒いて気分転換しています。
インスピレーションが湧かない時は、どうしますか?
少しでも取っ掛かりを見つけられる様に、参考資料を幅広く探します。 日常的にストック資料を集めているのでそれを見たり、動画や自宅にある写真集、アニメ原画集などを参考にしたりしています。
ちなみに昨日の睡眠時間は何時間でしたか?
8時間です。
作画監督としては、制作の意図をどのようにスタッフ全員に共有するのですか?
言葉だけだと伝わらない事が多いので、イメージに近い画像資料をまとめたり、メモや図解をして共有しています。
作画を統括される立場として、他のクリエイターの個性を活かすためにしていることはありますか?
演出意図から外れずにより面白くなるのであれば、今までやった事のない事でも積極的に他のクリエーターの個性を盛り込んで、作品の表現に幅を持たせるようにしています。ですが、意図から外れてしまう事もあります。そういう場合は、どんなに面白くても意図に沿うように変更をお願いする事もあります。
他のスタッフと意見が分かれた時にはどう解決されますか?
話し合います。アイディアを出し合い、お互いの譲れないポイントを探りつつ、作品として一番しっくりきて、面白いと思う所に着地させます。
作り手としてもっとも嬉しい瞬間とは?
フィニッシュの画面でバシン!と絵が決まっているのを見る時です。 何物にも代えがたいものがあります。
MAPPAって、どんな会社ですか?
貪欲に新しい事に挑戦しながら、練りに練って練り切った美しい世界観を作り続ける姿勢が、MAPPAの個性になっていると思います。
『全修。』の中で「ここを見てほしい!」と思われるポイントや、作品を通して伝えたいメッセージがあれば教えて下さい。
観始めると、リスペクトを持って取り入れられた沢山のアニメオマージュに気を引かれがちですが、この作品の見所は主人公であるナツコの成長物語であり、ラブコメである事です。一話一話を積み重ねる中で、ナツコ自身の事、ナツコとルークの事、ナツコと周囲の関わりなどが変化していく過程を楽しんで頂けたら嬉しいです。作り手が伝えたい想いは、作品に全て込められています。
表現者 石川 佳代子を掘り下げる15の質問■意識するのは?「瞬間的にいかに見せたいものを印象に残すか」

石川さんがアニメ制作の仕事に就こうと思うきっかけになった作品があれば教えて下さい。
子供の頃、叔父の家に行く度にレーザーディスクの『ファイブスターストーリー』を観ていました。あの蠱惑的でフェチズムを感じる作品に心動かされたのだと思います。
今まで携わった中で一番挑戦的だったプロジェクトは何ですか?
『アイカツ!』のエンディングです。 それまでエンディングを作った事が無かったのですが、コンテやイメージボード、色彩ラフ、背景、作画など沢山の事をさせて頂きました。作っている間は大変な事も沢山ありましたが、子供がどうしたら毎週飽きずにエンディングまで見てくれるのかを考えながら作成しました。それがとても好評で、その後『アイカツ!』では9本、『うちのタマ知りませんか?』で11本エンディングを作る事になります。
アニメーションは、実写と比べて表現の幅が広い手法だと思っています。作品ごとに描くタッチを変えるのは難しくないのでしょうか。
アニメの仕事をする上で、一つのスキルとしてある程度作品の絵柄に寄せることはできますが、人それぞれ得意な分野の絵があります。得意な分野だとスルスル描けるものが、全く違う分野になると描きづらさを感じるのはあると思います。それを楽しいと思えたら勝ちですね。
では、石川さんご自身が最も得意とするのはどのような表現ですか?
『アイカツ!』に長く関わって来たので、可愛いもののデザインは得意になりました。 また、創造性のある服飾デザインや色彩、キャラクター作りが得意です。
グッズも高い評価を受けていて、石川さん自身の固定ファンも沢山おられますよね。
恥ずかしさもあるのですが、嬉しく思います。14年程前にアイカツのエンディングを作った時に子供だった方々が、大人になって『アイカツ!』エンディングが好きだと声をかけて下さる事があります。本当に凄い事ですね。
ご自身の作風が、観る人にどんな影響を与えていると思いますか?
目の前を通り過ぎるだけのものにならず、引っ掛かりを与えることができていたら嬉しいですね。
アニメーションを作る仕事の楽しさをどんなところに感じますか?
自分一人では見えない世界が見える事だと思います。

『全修。』ではuniの筆記具を細部までリアルに描いておられます。なぜですか?
作画する時、いつもそばにあるものですので、とても思い入れがあります。表記を入れた事によって、鉛筆にとても説得力が出ましたし、より親近感を感じる絵になったと思います。
アニメーションの動きの魅力はどこにあると思われますか?
現実的ではないスピード感や動き、誇張表現など、アニメだから出来る気持ち良さがあります。そこには必ず感情が乗っているので、そこに惹かれるのではないでしょうか?
日本のアニメは世界中で評価されていますが、日本ならではの表現とは何でしょう?
貪欲に多様な世界を受け入れ、嚙み砕いて、アクセス可能なツールにして、新しいものを作り出す事だと思います。
今後、アニメーション制作の現場や、アニメに対する評価はどう変化する、あるいはどう変化してほしいと思いますか?
『全修。』は、珍しくアナログ作画の方が多かったですが、どんどんデジタル化の波が押し寄せて来続けています。10年後には殆ど全てがデジタル作業になると思います。その中でも質感や雰囲気を重んじる演出としてアナログ感は大切にしていたいし、そうあって欲しいですね。
手描きとデジタルの表現の一番の違いは何でしょうか?
アナログ感でしょうか。アナログにはアナログの力強さがあると感じています。今の時代デジタルでもアナログ感は出せますが、まだ完全には再現が出来ていないと思っています。
石川さんの画は色使いや光の使い方が個性的だと感じています。意識されていますか?
アニメ映像は常に流れていくものなので、その瞬間的な時間の中でいかに見せたいものを印象に残すか、どうやってコントロールするかを考えています。その一つの方法として色と光を使う事がありますね。
自分らしい絵や仕事のスタイルを確立するために、どんなことをしてこられましたか?
若い頃、とある方に自分自身の中にデザインの引き出しを作っておくと良いよと、アドバイス頂いた事があります。それから、雑誌や本を買ったり、ネットで資料を調べたりと、積極的に情報を集めるようになりました。それは今の仕事にとても生きていると思います。
自分の作風に対して批判を受けたことはありますか?
あります。100人居たとして、100人全ての人から好意を持って頂く事は不可能だと思います。 それでも、仕事として絵を描いているからには、見ていて下さる方々や自分自身が少しでも良いと思えるものを模索して描いていきたいです。ご意見は受け止めつつ、割り切っていく事も大切だと思います。
30の答えを通して垣間見えたのは、石川さんのプロとしての矜持と覚悟。「カラフルで可愛い」作風も、経験と学びを続け、丹念に細部を作り込んでいるからこそ輝く表現であると理解できます。 最後に「今後挑戦してみたい作品やジャンルはありますか?」と質問すると、意外にも「推理ミステリーや時代劇、ホラー。個性の強い作品がやってみたい」との返答。得意ジャンルに安住することなく幅を広げていくことを望むのは、仕事人であり表現者としての冒険心でしょうか。
石川さんの筆記具
uni star鉛筆(HB~4B)
「程よい硬さと柔らかさがあるので、細い線も太い線も綺麗に引けます。
『全修。』の作中で、アナログ感のあるタッチのキャラクターを出現させて戦うシーンがあります。そのアナログ感を出すために3B、4Bの柔らかい鉛筆で描いています。また、ロングの小さい人を描く時は、キャラが潰れない様に硬めのHBの鉛筆で描いています。」
