三菱鉛筆×カリモク家具
スペシャル対談
三菱鉛筆の「uni MATERIAL JOURNEY 旅する素材。(以下、旅する素材。)」が注目したのは、家具づくりの製造工程で生じる木の端材。筆記具メーカーの三菱鉛筆と、家具・インテリア企業であるカリモク家具という大きくかけ離れた分野の2社による異色の協業が実現しました。
このコラボレーションの背景を紐解くべく、それぞれの担当者による対談を実施。単なる協業ではなく、時代背景や企業のビジョンに沿ったストーリーについて、じっくりと語ってもらいました。
相互リスペクトと共鳴、
2社協業の背景
まず最初に、それぞれ今回のプロジェクト担当者の自己紹介からお願いします。
カリモク家具 和田晃さん(以下、和田):カリモク家具の和田です。事業開発本部にて、主にOEM事業の窓口を担っています。
カリモク家具 池田令和さん(以下、池田):カリモク家具の池田です。事業開発本部にて、新規事業の立上げや協業開拓を行っています。
三菱鉛筆 藤川恵汰さん(以下、藤川):三菱鉛筆の藤川です。商品開発部にて、油性ボールペン「ジェットストリーム」のブランド担当として新製品の企画を行っています。
三菱鉛筆 柳飛沙則さん(以下、柳):三菱鉛筆の柳です。研究開発センターにて、ボールペンや鉛筆などの新製品開発を担当しています。
まずは三菱鉛筆とカリモク家具、2社の協業がどのようにスタートしたのか教えてください。
藤川:数年前から、身近な廃材や再生可能な材料を筆記具にアップサイクルする事をテーマに、社内でプロジェクトメンバーを募って活動していました。カリモク家具さんは以前からも化粧品や生活雑貨といった他業界の企業と積極的にコラボレーションをされていて、家具製造時の端材を他製品に活用していることも存じていたので、我々とも何かご一緒にできないかなと思い、私達からお声掛けいたしました。
池田:はじまりはカリモク家具の問い合わせ窓口に、直接ご連絡いただきました。こういった取組み相談の場合、どなたかの紹介を挟むことが多いのですが、今回は正面からの相談に逆に本気度が感じられました。
藤川:どこからご連絡すればいいのか分からなかったので、プレスリリースに記載してあった問い合わせ先からまずはメールをお送りしました。その後、オンラインでのミーティングを何度か行い、プロジェクトが始動していきました。
最初のミーティングではどのような話をされたのでしょうか。
藤川:まずはお互いの温度感や方向性などを確かめつつ、その上で何ができるかを考えていきました。
お互いの第一印象は?
藤川:カリモク家具さんも三菱鉛筆も長い歴史を持つ、ものづくりに特化した企業なので、勝手ながら親近感を抱いていました。実際にお話して、お仕事もさせていただく中で、その気持ちはより一層高まりました。カリモク家具さんの工場も見学させていただいたのですが、そこで働かれている方々の雰囲気もとてもよく、同時にものづくりに対する誇りも感じました。
カリモク家具さん側はいかがでしょうか?
池田:最初のご連絡から、誠実というか真面目な印象を受けました。我々としても身を引き締めなければなと。藤川さんがおっしゃったように、ものづくりに対する姿勢やこだわりなど、我々も親近感を抱く部分は多かったです。あと、今回のプロジェクトに関しては速度感もすごかったですね。
柳:毎日のようにメールが飛び交っていましたね(笑)。
池田:そうですね。この速度感に置いてかれないようにしなければと感じました。
藤川:意識してスピーディーに進めていたわけではないのですが、商品化を2023年秋に設定させてもらったのと、開発に時間がかかるであろうことは予想できていたので、とにかく時間がなかったですね。
和田:スケジュールがしっかりと固まっていたのは、我々としてもありがたかったです。迅速に進んでいくけど、決して雑な進行ではなくて、安心感がありました。
柳:個人的に驚いた点としては、開発の段階ではやはり上手くいかないこともあり、いわゆる木材ならではの加工不良品も出てきます。ただ、カリモク家具さんはそういった不良品もどうにか上手く再利用できないか考えてくださり、木材への愛情とリスペクトを感じました。
池田:カリモク家具ではどんな木材でも、出来る限り使ってあげたいという考え方が基本にあります。加工の段階で不具合が出てきても、工夫次第で実際に救える事例も少なくないです。
柳:あと、これは私事なのですが、世の中には色々な価格帯の家具がある中で、正直これまではその違いがあまりわかっていませんでした。それがカリモク家具さんの工場見学をさせていただいたことで、プロダクトの品質に対するこだわりなどを身をもって理解することができましたし、その価格にも非常に納得しました。なので、個人的にカリモク家具さんのソファを購入させていただきました。
池田:え!? 言ってくださいよ(笑)。
一同:(笑)
柳:わざわざお伝えするのもいやらしいかなと思って……(笑)。現在でも毎日愛用しています。
池田:すごく嬉しいです。……我々からすると、今回のプロダクトは、大きさとしてはカリモク家具で手掛けるものの中で今までで一番小さい商材になります。なので、その細かいパーツ一つひとつに対する三菱鉛筆さんのこだわりに驚かされました。ものづくりにサイズの大小は関係ないのだなという、当たり前のことを再認識しました。
「違いが、美しい。」
──自分らしい1本を選ぶ楽しさや発見を
では、顔合わせやミーティング以降、どのように製品化へ向けて動き出したのかを教えてもらえますか?
藤川:いきなり製品化を目指したのではなく、私達が毎年開催している商談のための流通向け展示会があるのですが、最初は2022年夏の展示会にて、コンセプト展示を行いました。
展示はどのような内容だったのでしょうか?
藤川:展示会では、ストーリー性のある廃材や再生材の活用をテーマに「旅する素材。」というタイトルでの展示を行いました。内容としては、以前からあった、「ピュアモルト」という、サントリーさんのウイスキー樽として使用されていたオーク材を再利用した従来シリーズをはじめ、さらに間口を広げ、他にも様々な素材の活用にチャレンジした試作モデルを披露しました。本来は廃棄されてしまうような素材が、また形を変えて手元にたどり着く過程を“旅”と表現し、旅情を想起させるようなイメージでブースづくりを行った結果、来場者からも「様々な素材のストーリー性に共感した」「カリモクとのコラボ商品であれば3,000円でもほしい」など、ありがたいお言葉をいただけました。そこで手応えを感じて、ブランドの立ち上げや、カリモク家具さんとの協業へと本格的に動き出したという流れになります。
「旅する素材。」内のプロジェクトのひとつとして、カリモク家具さんとの協業があったと。
藤川:そうですね、ブランドの立ち上げと同時に、カリモク家具さんとの協業を進めていました。実は、展示会で並べていた、環境負荷の少ないサステナブル素材である竹材を使用した「ジェットストリーム 4&1 BAMBOO」、海洋プラスチックごみとコンタクトレンズの空ケースを再利用した「ジェットストリーム 海洋プラスチック」はすでに商品化に至っていて、以前から販売している「ピュアモルト」シリーズも含めると、カリモク家具さんとのプロダクトは第4弾ということになります。
「旅する素材。」のコンセプトについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
藤川:このブランドの背景には2つ考えがあります。近年、社会全体で意識の高まっている環境問題に対して、顧客目線でアプローチできないか、という考えがひとつ。もうひとつは、2022年から三菱鉛筆のビジョン/経営理念が刷新され、「違いが、美しい。」というメッセージを掲げているのですが、時代の流れと私達の進みたい方向性、その2つが合わさった結果生まれたのが「旅する素材。」というブランドになります。
今回のプロダクトに使用した木材は、どのように選定したのでしょうか?
池田:今回は珍しい木材を使うのではなく、家具では定番とされているナラ材、ウォールナット材をご提案させてもらいました。やはり協業するのであれば長くお付き合いしていきたいですし、そのためには安定して供給できる素材であることが重要だと考えました。
カリモク家具では2009年から「カリモクニュースタンダード」というブランドを立ち上げまして、それまで有効的に使われてこなかった国産の小径の木材からとれる小さな木材を貼り合わせて作った家具を販売しています。そこで培った技術やノウハウが、今回の協業でも活かされています。
なるほど。とてもエシカルな取り組みですね。
池田:世の中的に大きい木材を贅沢に使用することに価値を置いていた時代もあったのですが、「カリモクニュースタンダード」では小さい素材を使うがゆえに生まれる、微妙な色の違いなども「味」であり「価値」であることも提案しています。三菱鉛筆さんとの協業もそういった文脈の延長線上にあるのかなと。
商品化に向けた開発段階で特にこだわったポイント、もしくは苦労した点などを教えてください。
柳:カリモク家具さんから実際に素材をご提供いただいて、この2つの木材のキャラクターの違いに驚きました。ウォールナットは優しいというか、とても加工しやすいのですが、ナラは結構暴れん坊で(笑)。加工の段階で割れやすいし、削った面もガサガサと荒れやすいです。なので、それぞれの木材で研磨の方法や条件も変えなければいけない。それが苦労したポイントですね。
藤川:我々は鉛筆からスタートした会社で、これまで色々な木材を使用してきてはいるものの、やはりカリモク家具さんは木材のプロフェッショナルだなと、協業を通して感じました。進めていく中で木材それぞれの模様や色の違いなど、たくさんの発見もありましたね。
グリップの塗装にもカリモク家具さんの技術が活かされているのでしょうか?
和田:実は我々から「ぜひうちでやらせてください」とお願いして、グリップの塗装も担当させてもらいました。せっかくの協業ですし、木材を提供するだけでは寂しいなと(笑)。筆記具は手で持つ、握るものなので、塗装も妥協することなく家具と同じ品質で行っています。
藤川:家具と同じ仕上げにしていただけるというのがとても嬉しかったです。家具って値段的にも実際のサイズ的にも大きな買い物だと思うのですが、その素材や技術を筆記具に落とし込むことで、より身近に感じていただけるのかなと。
池田:文具家具、もしくは家具文具っていう感じですよね(笑)。
柳:いい表現ですね。
池田:筆記具としての機能や魅力に加えて、木の質感も楽しめる。まさに両者のいいところを落とし込むことができたなと思います。
和田:また、藤川さんが先におっしゃったように、素材ならではの色の違いや表情を楽しんでいただけるような仕上がりを目指しました。色は入れずにナチュラルな塗装になっているので、経年変化も味わっていただけると思います。
人間と同じで木材は日焼けもするので、時間とともにウォールナットの場合はだんだん黄色味がかった薄い色に、ナラに関しては色がより濃くなっていくといった変化が楽しめるはずです。
経年変化していくことで、より一層自分ならではの1本として愛着が湧きそうです。
藤川:色だけでなく木目も個体差があるのが特徴です。また、フィンガージョイント製法という手法で端材と端材を繋ぎ合わせているため、ギザギザとした継ぎ目が現れる個体もあります。そういった部分も含めて、自分らしい1本を選ぶ楽しさや発見を提供できればなと思います。
「違いが、美しい。」という企業理念にも繋がりますよね。
藤川:まさしくそうですね。製品化するにあたって、見た目上のバラつきや個体差も、それぞれ個性や魅力として提案していきたいです。
サステナブルなネットワークを
広げていく
グリップ以外のカラーリングも印象的です。特にこだわった点などはありますか?
藤川:カラーリングについては我々から選定させていただきました。カリモク家具さんとのコラボレーションとのことで、当初は「カリモクニュースタンダード」や「カリモク60」といったブランドで使用されているカラーをそのまま使わせていただくというアイディアもありました。ですが、今回はより間口を広げたいと思い、カリモク家具さんの商品の家具らしさやカラーラインアップをイメージしつつも、あえて特定のブランドとダイレクトに紐づけることは避けました。
和田:塗装の質感もいいですよね。それこそ上質な家具のような手触りといいますか。
柳:この塗装も実は初めての試みとなります。ソフトフィール塗装というジャンルの手法で、当社としてもなかなかチャレンジングな取り組みでした。
藤川:今回の商品はグリップだけでなく、頭から先までソフトな手触りを目指しました。消しゴムキャップから後軸、グリップ、先軸まで、材質は違うのですが全て質感にこだわって仕上げています。ファブリックのソファなどにあるような柔らかく温かみのある触り心地になっています。
パッケージも凝った作りですよね。普通の筆記具ではあまり見ないような形状になっていて。
池田:このパッケージ、素敵ですよね。家具と同じように、購入する前に木目の風合いなどを触って確かめることができる。それにパッケージの色と軸の色もしっかり合っているので、こだわりを感じます。
藤川:ありがとうございます。パッケージにもこだわりました。3,000円という価格なので、包装自体も上質なものにしたいと思い、家族や友人などへのギフトとしてはもちろん、自分用としても納得して購入いただけるような仕上がりを目指しました。
メインの材質は紙ですか?
藤川:はい。こちらは再生紙を使用しています。できる限りプラスチックを使わないように意識しました。あとは池田さんがおっしゃってくれたように、グリップを実際に触って確認できる作りにしました。また、パッケージの側面にはカリモク家具さんとの協業のストーリーも記載しているので、そこにも注目してほしいですね。
ただ新商品を発売するだけでなく、ブランドとしての背景やそこに込められている想いも一緒に届けているのですね。今回ご用意していただいた、この什器ももちろん特製ですよね。
藤川:店舗に置かせていただく販売什器も大事なプロモーションツールのひとつなので、コンセプトを体現するために、こちらもやはりカリモク家具さんの木の端材を什器の一部に使わせていただきました。こちらは大型店舗向けのバージョンですが、メインのロゴ入り看板とセンターに配した丸棒、そして土台は全てカリモク家具さんの木材で製作しました。
池田:グリップと同じく全て家具の生産過程で生じる端材で、商品と同じ塗装で仕上げています。
藤川:他にはこのロゴ入り看板だけを木材で、その他の部分を紙で製作した什器も用意しています。デザインコンセプトとしては、全体を温かみのある部屋に見立てて、その中に家具のような色使いの商品が配置されている、そのようなイメージで作りました。商品が置かれて初めて完成する什器になります。
池田:こういった販促ツールを木材で作るのって、結構贅沢ですよね。これも実は我々から「ぜひやらせてほしい」とお願いしました。
和田:よりカリモク家具の“家具”を感じていただける仕上がりになったのかなって思いますね。
藤川:商品と同じ考えで、すぐに捨てられてしまうような什器を作るのではなく、長く売り場で使用してもらいたい、という思いもあります。
池田:商品を販売する環境もサステナブルになれば嬉しいですよね。
「旅する素材。」の今後の展開について教えてください。
藤川:環境に配慮されていること自体は大事ですが、それに加え、三菱鉛筆らしく顧客目線でも価値を提供できるブランドへと成長させていければと考えています。環境課題は1社単独では解決できない面もあるので、他業種も含めた外部の企業・団体との協業は今後も積極的に行いたいです。お互いの活動や取り組みをそれぞれの販路や領域でお客様に伝えることで、その価値を増幅できることが協業の良い点だと実感しています。筆記具メーカーとして日々追求している機能性だけでなく、今回カリモク家具さんとの協業で生まれたこのデザイン性、品質、ストーリーといったような部分にもよりフォーカスし、お客様が本当に欲しいと思える商品を作っていきたいと思います。
カリモク家具さんとしては、環境に配慮した動きについてはどのように考えていますか?
池田:我々は森林を資源に事業活動を行っているため、かねてより森林の持続可能性について意識してきました。今後も同様の取り組みは続けていきたいと考えています。三菱鉛筆さんと同じく、我々も他企業・団体と手を取り合って、サステナブルなネットワークを広げていくことが、よりよい社会に繋がるのではないかなと思いますね。
カリモク家具は家具メーカーですが、木材でできることであれば柔軟に取り組んでいきたいので、今回の筆記具だけでなく、思いもよらない業種とのコラボレーションなども行いたいと思っています。
ロケーション協力:
Karimoku Commons(https://commons.karimoku.com/)
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開館時間 12:00~18:00
※所属・インタビュー内容は2023年11月時点
のものです。